2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。
川崎医科大学 学報 編集後記 
2012年7月4日
桜舞う四月に日本内科学会に参加するため京都をそぞろ歩き。会場であった「みやこメッセ」のお隣の平安神宮参道の枝垂桜は満開の花の重さに,まさ に枝垂れて春を謳歌していた。鴨川沿い,そして疎水沿い,高瀬川の近辺,さらには建仁寺もまた少し散り急ぐ桜の花びらが池の水面や川面に舞って, 往く時の儚さを思わざるを得ない場面に,そこには3.11からすでに一年が経っていったことを感じざるを得ない。

河出書房新社の「14歳の世渡り 術」シリーズとして212.3.20に「特別授業 3.11 君たちはどう生きるか」が出版された。

シリーズに沿って,単元は国語とか歴史とか政治とか地理とかになってはいるが,岡山県在住「バッテリー」の著述でも 有名なあさのあつこ氏,そして個人的にも25年来もっとも好きな作家である池澤夏樹氏なども執筆されている。講談社が2012.2.24.に「そ れでも三月は,また」を刊行した。書き下ろしや3.11の後に執筆された作品が集められていて,もちろん,ここにも池澤夏樹氏の書き下ろしが入っているので,購入したのであるが,そこには,これも大好きな多和田葉子氏(独逸語と日本語での著述を継続されていて2011年には「尼僧とキューピットの弓」で紫式部文学賞,「雪の練習生」で野間文芸賞を受賞されたが,このどちらもまさに俊逸!),本学の秘書室にも勤務経験のある小川洋子 氏(映画にもなった「博士の愛した数式」はご存知?),言わずと知れた村上龍氏,そして川上弘美氏,角田光代氏,重松清氏,川上未映子氏,阿部和 重氏,佐伯一麦氏(この方は私小説の方なのだが『電気工をしていた20代にアスベストの被害で肋膜炎にかかり、以後、喘息の持病を抱えながら執筆 を行なっている。2007年にはアスベストの被害を追ったルポルタージュ『石の肺』を刊行した(Wikipediaより)』,作品「石の肺」は教 室の仕事としてアスベストの免疫影響などをメインに検討する中で,触れさせてもらった)などなど,著名な作家の方々の作品が散りばめられている。

3月にはICOH:International Congress on Occupational Health国際労働衛生会議が墨西哥のカンクンで開催され Allergy & Immunotoxicology Scientific Committee の Secretaryをしている関係で,座長や発表などをこなしながら,チチェン遺跡にも足を延ばしてみた。

その途中,コロニアル形式の小さな町を訪れた時 にすでに歴史となったスペイン人の建てた古い教会の周囲をマイクロバスがぐるりと回ったのだが,そこはマヤ文明の小さな神殿(?)・ピラミッドが その昔には建っていたところだという。

侵略の果てに新たに築かれた物でさえ,今は歴史の中に埋もれて行っていた。

「君たちはどう生きるか」の中 で,池澤氏は3.11とそれに続く原発事故の問題,さらにスペイン人が蹂躙した「新大陸」の先住民についても触れ,天災と人災を比較しながら人と して人と会話することにも言及する。

翻って,2012.5.15.岡山県庁で,平成24年度岡山県企業誘致推進協議会総会が催され,本学もこの協議会の会員であるため学長代理として対外活動担当を仰せつかってい る私は参加してきた。

昨年度の総会でも触れられていたが県は岡山県の天変地異の少なさを企業誘致の売りにして,県知事自ら東京や大阪でPR活動に 励まれていらっしゃるとのことであった。

地理の中の日本列島,温帯モンスーンの中の四季と自然が織りなす実りによって景観や情緒としての美しさ, そこから紡ぎだされる哲学や宗教の独自性などを池澤氏は語るが,その裏返しの天災の多さもまた日本列島の地理によると記す。

地震,津波,火山の噴 火。台風もあり,今年は竜巻まで猛威を奮った。先だってのタイの洪水は欧州その他と同じで,じわじわと水位があがってすべてを水没させる。

日本の 洪水はいきなりやってきてすべてを洗い流す。

津波の様な洪水だと。

2012.6.01.に日本臨床環境医学会に参加した際,市民公開特別講演で北野大氏(明治大学,もちろんタケシのお兄ちゃん)が,水と環境の講義をされ,その昔,明治時代に欧州から来た治水学者が日本には川はない,あるのは滝ばかりと云ったとのこと。

あるいは中国から訪れた誰かは,岡山に川を見つけた(それは実は瀬戸内海)とのこと!

さもありなんとはこれらの逸話なりと感じさせられた。

そして,池澤氏は「だから日本人は失うことに馴れている」,「災害のたびに人は肉親を失い,家財を失い,村や町を失い,そ の場に座り込んでわーわー泣いて,泣き疲れたころまた立ち上がって再建のために動き出した」,「ずっとそういう国だったんだ」と続ける。

西行法師を持ち出すまでもなく,4月の京都には疎水沿いの桜屏風,そして高瀬川を流れる散った桜の花びらたち。往く時の儚さを思わざるを得ない場面に,そこには3.11からすでに一年が経っていったことを感じざるを得ない(と,ここで冒頭で記した文章に戻ったので,今回の編集後記はここまで。

よ かったら池澤氏の最新作「氷山の南」も読んでみてよ。

3.11に直結していないけれど,自然と環境と人の生業について考えることのできる,でも とってもステキな冒険海洋小説だから)。